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「シリーズ:なぜ人は学ぶのか」④生物の先生にインタビュー(前編)(3/5UP)

2026.03.05

[プロジェクト]

本校が大切にし続けている「学問の尊重」という姿勢。「なぜ人は学ぶのか」シリーズは、学びの最前線で日々試行錯誤を繰り返している教員やフェリスに繋がりをもつ人々の想いに迫ります。第四回目は、生物を担当しているD先生です。

いつも朗らかで笑顔が絶えないD先生は、生徒たちから「会うと元気をもらえる」「親身に相談にのってくださる」と評判です。生物を教えていることから「自然を愛し、生きものが大好き」というイメージが定着してしまい、学校に大型の虫が紛れ込むと、「D先生、お願いします!」と声がかかることもしばしば。実は虫は少し苦手ながらも、勇気を出して対応してくださる優しさあふれる先生です。
インタビュー前編では、先生がこれまでされてきた研究や、学問の面白さについて語って頂きました。

Q1 大学院ではどのような研究をされていたのでしょうか。
大学院では「植物の光屈性」という現象について研究しました。光屈性とは、植物の茎や根が光の方向に対して一定の方向に曲がる性質のことです。たとえば、窓際に置いた植物の茎が太陽の光に向かって伸びる姿は、身近な光屈性の例です。
この光屈性は高校生物の教科書にも掲載されており、研究の歴史も非常に長いものです。19世紀には進化論で有名なダーウィンも光屈性を観察し、芽生えの先端で光を感じ、その情報が下部に伝わって曲がるのではないかと考えました。その後、この情報を伝える物質は、植物ホルモンの一種であるオーキシンであることが分かりました。
しかし、現代でも植物が光を受けてからオーキシンがどのように移動し、細胞や遺伝子がどのように応答して植物が曲がるのか、完全には解明されていません。私は「高校の教科書に載る有名な現象でも、まだ分からないことがある」という点に大きな魅力を感じ、植物ホルモンを扱う研究室で、トウモロコシの芽生えの光屈性について研究しました。芽生えのどの部分が光を感じているのか、光を受けるとオーキシンの分布にどのような変化が生じるのか、さらにその背後にある遺伝子は何かといった点を解析し、こうした研究を通して、一つの生命現象を「形態」「物質」「遺伝子」などという多角的な視点から考えることの大切さを学びました。
また、研究に取り組む中で、「よく知られていることであっても、すべてが分かっているわけではない」ということも痛感しました。自分が理解したと思っていることも、「本当にそうなのか?」と疑い、批判的に見る姿勢を持つことが、研究を深める第一歩です。
研究者というと一人で黙々と机に向かう姿を思い浮かべますが、実際には仲間との議論や活発なコミュニケーションが不可欠です。そこで研究以外でも、他大学の理系学生との交流コミュニティに参加し、生命科学だけでなく工学や物理学など幅広い分野に触れるようにしていました。こうしてコミュニティを広く持ち、新たな実験手法の着想を得たり、協力する力を養うことも意識していました。

Q2 生物は人体や細胞、環境問題といった身近な題材を扱うので、イメージがしやすい分野だと思いますが、学問としての面白さ・奥深さというのはどこにあるのでしょうか。
生物学の面白さは、身の回りの「生きもの」に関わる現象を扱う一方で、単純に見えてもその仕組みを深く掘り下げると、まだ分からないことがたくさんある点にあります。身近だからこそ、よく観察して確かめ、深く考えてることで理解が深まったり、新しい発見につながったりします。こうした経験は学問としての面白さだけでなく、将来社会に出て必要となる論理的思考力の育成にもつながると感じています。
加えて私が特に大切にしているのは、物事を批判的に見る姿勢です。当たり前や思い込みを疑い、自分の目で確かめ、考えることこそが科学を深める第一歩になります。身近な生命現象も未だ解明されていない部分が多く、新しい研究分野を切り開くことができる可能性があるという点も、生物学の奥深さだと思います。
私はJ1(中1)の理科を担当する時に、1965年にノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎氏の言葉を紹介しています。「ふしぎだと思うこと これが科学の芽です よく観察して確かめ そして考えること これが科学の茎です そうして最後になぞが解ける これが科学の花です。」生物学では、目に見える現象や身近な生き物の中に、この芽・茎・花の連続を実感できる瞬間が数多くあります。生徒たちにも、科学そして生物学の楽しさを、この言葉と共に感じてもらいたいと願っています。
21世紀は生命科学の時代ともいわれています。ヒトを含めた多くの生物のゲノムが解読され、生命現象の理解が急速に進み、その成果は医学や農学、工学などの分野に応用されるだけでなく、経済学や教育学などの従来文系といわれてきた分野にも大きな影響を与えています。地球温暖化や食糧問題、生物多様性の保護といった地球規模の課題を解決するためにも、生命科学の知見が欠かせません。だからこそ、生徒の皆さんとともに生命科学の基礎を学び、身近な現象への関心を出発点に、批判的に物事を考える姿勢を育みながら、これからの社会を切り開く力を身につけていって欲しいと願っています。

Q3 幅広い分野を扱う生物ですが、授業で工夫していることはありますか?
授業では、自分の体験を話すことを心がけています。そのため、休みの日は自然があふれる場所を訪れることが多いです。上高地や八ヶ岳、石垣島へ行ったり、高尾山周辺を歩いたりしています。たまに双眼鏡や望遠鏡を持って天体観測に行くこともあり、2024年には、紫金山・アトラス彗星の観察を楽しみました。
こうしたお出かけの際には、その場所の植生や地理的な成り立ちを事前に調べるようにしています。たとえば私は上高地が大好きでよく行くのですが、上高地関連の書籍で予習をしてから現地を訪れると、見えるものの解像度がぐっと上がります。また、数年前に出産を経験し、現在は子育て中です。そのなかでの経験を授業にどう活かせるかをよく考えています。入院時に助産師さんと一緒に、高校生物でのヒトをはじめとする動物の発生の扱いや、性教育について話す機会があり、生きた知識になりました。
生物は日々新しい発見が積み重ねられ、教科書の内容も数年で更新されていきます。そのため、生命現象に関わるニュースや、各大学・研究機関等の最新の研究内容にもアンテナを張り、常にキャッチアップするようにしています。

前編は、生物学の魅力、そして教科書を超えて広がる身の周りの世界を楽しみながら、「科学」に向き合う先生の日々のご様子が伝わるインタビューとなりました。文系・理系を問わず、生命科学の基礎を学んでいくことは、これからの社会を切り開いていく力になるという視点を、生徒の皆さんにも是非もってもらいたいですね。
来週公開の後編では、先生が現在力をいれている探究学習について語って頂きます。お楽しみに!


<シリーズ:なぜ人は学ぶのか バックナンバー>
①世界史の先生 前編 後編
②古典の先生 前編後編
③画家の卒業生 前編後編

 

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