文字サイズ

  • 標準
  • 大きく
MENU
CLOSE

授業探訪:「物理」~見えない線を霧で捉えよ!~(11/21UP)

2025.11.21

[授業]

 先日、S1(高校1年生)物理の授業で、放射線の観察実験が行われました。これは、目に見えない放射線の飛跡を「霧箱」という装置を用いて捉え、観察するという試みです。
 
 フェリスでは毎年S1が冬に研修旅行で広島を訪れ、平和学習を行います。その学習の中には、被爆者の方のご講演や、原爆資料館の見学など、核兵器について改めて問い直す機会も多く含まれています。(関連記事;「広島で考える『核』と『平和』」)その現地での学びを実り多いものにするため、S1では教科の垣根を越えて、核と戦争について事前学習を重ねます。今回の観察実験も、核反応と切っても切れない関係にある放射線について、その特性を学ぶ貴重な機会として行われました。

 
 「霧箱」とは、通常は目に見えない放射線の飛跡を、目に見える形で観察することができるようにする装置です。装置の仕組みは意外と単純で、まず密閉した箱の底に放射線源となる石を置き、その箱の中にエタノールの蒸気を充満させます。そして、箱の底にアイスプレートを当てて箱を急激に冷却してゆきます。順当に考えれば、冷やしてゆく途中で空気中の飽和水蒸気量(空気が含むことのできる最大の水分量)を超えた分のエタノール蒸気は凝結してエタノールの水滴になると思われるところです。しかし、この箱の中では凝結はほとんど起こらず、箱の中の空気は飽和水蒸気量を超えた量のエタノール蒸気を含んだ状態(過飽和状態)になります。なぜかというと、箱の中には凝結するための核になるものがないからです。

 
 エタノール蒸気もそうですが、気体は基本的には目に見えません。しかし、なにかしらを核にして凝結する(液体になる)ことで、目に見える姿になります。ちょうど、大気中の見えない水蒸気が、ほこりなどを核として凝結することで、目に見える霧や雲(これらは液体です)の形になるのと同じです。ですので、核がない状態ではいくら過飽和状態になってもエタノールの蒸気はほとんど凝結せず、目にも見えません。

 
 さて、箱の中の石から放出される放射線は、箱の中の空気を通過してゆく際に、空気中に存在する原子や分子から電子を奪い、それらを陽イオン化します。すると、放射線が通過した跡には、大量の陽イオンが残ります。こうして箱内に生まれた陽イオンは、充満しているエタノールの水蒸気に対して、凝結するための核の役割を果たすことができるのです。

 
 つまり、箱内に満ちているエタノール蒸気は、放射線が通過した跡に残る陽イオンを核にして凝結し、エタノールの霧(液体)に姿を変え、私たちの目に見えるようになります。凝結して現れたこの霧の形状は当然、放射線が通った飛跡と一致するわけですから、発生する霧の形や方向によって間接的に放射線の放出される様子を観測することができます。これが「霧箱」の基本的な仕組みですが、今回は凝結を促進するため、静電気を箱内に近づけるという工程も加えられていました。


 実験が始まると、生徒たちは役割分担をして慎重に装置を準備し、箱の中のエタノール蒸気を冷却して霧が現れるのを待ちます。部屋の電気を落とし、箱の中に静電気を近づけながら待つことおよそ5分、箱の中にパッと白い霧の線が現れ始めました。線源から放射状に次々と霧が現れます。はっきりとした変化に生徒たちも歓声を上げ、各自見やすい角度を探しながらじっくりと観察を行っていました。普段は見えないものが見える実験というだけあって、生徒たちも箱の中の様子に興味津々だったのが印象的でした。

 今回の実験は、放射線というものの存在をはっきりと感じられる良い機会でした。私たちはついつい目に見えないものは存在しないものと考えてしまいがちです。しかし、目には見えないながらも、周囲に強い影響を与えるものは確かに存在しています。今回、霧によって放射線の存在が可視化されたことで、改めてその事実に気が付き、ハッとした生徒も多かったかもしれません。
 
広島研修旅行までの間、事前学習の機会はまだ多く残されています。どうか、生徒たちが各種の学習を通して多角的な視野を身に着け、現地での実際の学びに活かしてもらいたいと願っています。

赤い矢印の先に霧が写っています