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「シリーズ:なぜ人は学ぶのか」①世界史の先生にインタビュー(後編)(5/15UP)

2025.05.15

[プロジェクト]

>>>前編はこちら<<<

今回は先週に引き続き、「シリーズ:人はなぜ学ぶのか①世界史の先生にインタビュー」の後編をお届けします。

今回はいよいよ、A先生に歴史を学ぶ意義・世界史という学問を教える上での工夫・OGから見たフェリス生の魅力について語っていただきます!

Q⒈過去を学んで何になるのだ、という生徒もいるかと思いますが、先生にとって歴史を学ぶことはどのような意義があると思いますか。
 はっきり言って、歴史を学ばなくても生きてはいけます。しかし、私は「その生き方で良いの?」と問いたいですね。例えば、目の前に小石があったとしましょう。その石が「古代オリエントで鋳造された鉄の破片」であったなら、すごいお宝!と感動してしまいますが、その価値がわからなければ「ただの汚い石」です。つまり、「知る」ということは、今まで素通りしてきたもの・世界に対する見方を変え、新たな物差しを自分の中に作り続けていく大切な営みなのです。
 また、歴史を学ぶことで、自分が現在置かれている社会の構造を、その成立過程から知ることができます。私たちはすでに出来上がった社会システムの中で暮らしています。この社会システムには、不平等な力関係、経済的搾取、格差、差別などが組み込まれています。例えば、アメリカの黒人は逮捕されやすく、日本の女性がもらえる生涯賃金(平均)は男性と比べ遥かに少ない。表面上は公平に見えても、実際には特定の属性を持つ人が、人一倍努力をしなければいけないという「構造的差別」が存在し、これは自分がマジョリティにいる限り気づくことができません。この社会構造の中で、当たり前のように特権を享受しながら生きていくことももちろん可能かもしれませんが、そこに疑問をもち、そうした状況をもたらした力関係や事情を理解していくことが、より良い社会を創っていく一助となるのではないでしょうか。そこで歴史という学問が果たす役割は非常に大きいのです。

Q⒉世界史の授業を教える上で、工夫していることは何ですか。
 世界史の範囲はとても広く、古代文明から現代まで、中国・イスラーム・ヨーロッパ・インド…と多様な地域を扱います。大人になって、「今の社会情勢を理解するために、あの時もっと世界史をやっておけば良かった」とおっしゃる方はとても多いのですが、学生時代に世界史離れがおきてしまうのは、この膨大な範囲を覚えることに嫌気がさしたり、歴史そのものに興味を持てなかったりというのが原因だと思います。「世界史を学ぶ目的」が、ひたすら暗記して点をとることになってしまってしまうと、途端につまらなくなるのです。これは本当にもったいないことです。
世界史は本来、自分の知らない世界と出会うワクワクの連続であり、「現在」という特等席からタイムマシーンに乗って、ピラミッドをちらっと上から覗きに行けるような興奮にあふれているべきなのです。
そうしたワクワクを感じながら、同時に「なぜそうなるのか?」と問い続けることによって、社会をカガクすることの楽しさにも気づいてもらいたいと思っています。
なぜ中国は黄河・長江という二つの大河があるのに、政治の中心となるのは黄河流域だったのか?
なぜインドのカースト制度は、「平等」であるはずの現代でも無くならないのか?
なぜモナリザは「名画」なのか?
これらの問いに対する答えは一つではありません。あらゆる事象は多面的で、様々な角度から見ることによって理解が深まります。ですので、歴史学だけでなく、地理、政治、経済、思想、美術、宗教、紀行文など多様なジャンルの文献を日々読み込み、ロジカルかつクリティカルにその時代の実相が捉えられる「立体的」な授業を目指しています。

Q⒊卒業生でもある先生から見たフェリスの魅力とは?
 卒業してだいぶ経ちますが、同級生たちは第一線で活躍する人もいたり、海外に移住したり、自分で起業する人もいて、進路は十人十色です。ですが、皆に共通することは、芯が強いことだと思います。私もよく「芯があるね」とか「自立している」と言われることが多いので、これはフェリス生あるあるかなと。
「芯が強い」というのを具体的に説明すると、確固たる信念がある、自分の意見を持っていて周りに流されない、目標達成のために努力を惜しまず、またそれを成し遂げるという自信を持っているなどの性質が挙げられるでしょうか。こうした揺るがない土台を築いてくれたのが、フェリスでの6年間だったと感じています。
 まず、フェリスでは生徒たちを点数で判断せず、一人ひとりが愛され、尊重されるべき存在として、大切にされる空間が整っています。そして自分が思ったことを自由に発信して良いのだという安心の中で、自己の意見をしっかり持てるようになってゆきます。また、毎朝の礼拝でも「あなたはどう生きるのか」を問われ、世間体や周りの意見ではなく、「自分がどう生きたいのか」を考え続ける時間は10代の若き日々だからこそ、とても貴重でした。時代は変化し続けていますが、そのような厳しい社会だからこそ、揺るがない土台を築き、レジリエンス
(※逆境や困難を乗り越える力)を高められること、ここにフェリスの大きな魅力があるのではないかと思います。


「学ぶ意味」から始まり、授業上の工夫、OGから見たフェリスの魅力に至るまで、非常にボリュームのあるインタビュー後編となりました。
歴史という学問は、「知る」ことを通じて私たち個人の視野を広げてくれる学問であるとともに、私たちの社会に隠れた構造的な問題を見通す力を与えてくれる学問である。問題が自分の目に見えてくれば、私たちは自然とその解決方法を考えるようになる。そういう形で、歴史は私たちが社会をより良く変えてゆく後押しをしてくれている。それが、歴史を学ぶ意味ではないか――世界中を渡り歩き、それぞれに異なるルールで動く社会を体感してきたA先生はそう語ります。
今回A先生から語られた「人が学ぶ意味」は、みなさんの心にどう映るでしょうか。

シリーズ:「人はなぜ学ぶのか」は、まだまだ続きます。
次回のインタビューもお楽しみに!

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