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イスラエル人映画監督と考える「パレスチナの今」(11/5UP)

2024.11.05

[プロジェクト]

202310月7日のハマスによるイスラエル攻撃から約1年。パレスチナのガザ地区は、イスラエル軍の空爆によって廃墟と化し、死者が4万人を超えてもなお停戦への道筋は見えていません。

今回フェリスでは、NHK(日本放送協会)の協力の下、番組製作のために来日されたイスラエル人のドキュメンタリー映画監督デヴィッド・ワクスマン(David Wachsmann)氏をお招きし、S1(高1)歴史総合の授業の一環として、パレスチナで今何が起こっているのか、イスラエル人としてどのような思いを抱いているのかということをお話して頂きました。

デヴィッドさんは代表作「Two Kids a Day」で、イスラエル人兵士に石を投げたという理由で逮捕され、長期間拘留されたパレスチナ人青年らへのインタビューを通じ、イスラエルとパレスチナの間で憎しみの連鎖が続く背景を描かれました。映画タイトルは、イスラエルの占領が続くヨルダン川西岸地区において、平均して毎日2人のパレスチナ人の子どもがイスラエル軍に逮捕され、家族のもとから連れ去られている現状を示しています。この映画は、イスラエル人入植者の“安全”は、「パレスチナ人への抑圧」という形で保たれているという構造を、「入植している」という意識のないイスラエル人たちに鏡のように突きつけることを目的に製作されました。2022年に「Two Kids a Day」がイスラエルの映画館で上映された時は、とても大きな反響がありましたが、202310月にハマスが攻撃を行うと状況は一変し、映画のことを話すことさえ許されなくなったそうです。

現在イスラエル人の大半は、ハマスによる襲撃を「第二のホロコースト」と受け止めており、ハマス壊滅を願い、ガザへの攻撃を支持しています。停戦を求める人は少数派で、パレスチナで起こっているジェノサイドとも言うべき状況を批判すると、「反ユダヤ」のレッテルを貼られ、職を失い、言論を封殺されてしまうそうです。しかし、デヴィッドさんは「ハマスは無くならない。それは、ハマスがイデオロギーだから。仮に一時的に壊滅に追い込まれたとしても、また別の誰かが同じことを繰り返す。今必要なことは、力でおさえつけるのではなく、同じ土俵で対話すること。」と語ります。

デヴィッドさんの映画製作のパートナーはパレスチナ人(イスラエル国籍保持者)の方ですが、イスラエル人とパレスチナ人が一緒に働く、というのはイスラエル国内ではとても珍しいことだそうです。近くに暮らしていても、幼い頃から学校もコミュニティも分かれ、2つの社会が存在する。コミュニケーションをとれないのではなく、「とらない」。そうした空気が、差別と憎しみを増幅させ、対話を阻みます。その壁を打ち破って、信頼関係を築きパートナーとなったお2人の関係性は、私たちにかすかな希望と勇気を与えてくれます。

全編英語で行われた講演でしたが、通訳の方に間に入って頂きつつ、生徒たちは一生懸命メモを取り、デヴィッドさんの言葉に耳を傾けていました。質疑応答の時間では、積極的に英語で質問する姿も見られ、日頃の英語学習が実を結んだ瞬間でした。
ある生徒からは「平和を実現するためには、どのようなプロセスが必要だと思いますか?」という質問が寄せられました。それに対する答えは「平和ということを語れる段階に今いない。とにかく停戦をする。それが最初の一歩だ。」というものでした。私たちは簡単に「平和」や「和解」ということを口にしてしまいますが、それがいかに難しいものであるか、その途方もない道のりを思うと胸がつまります。生徒それぞれが言葉にできない想いを抱えながら、お別れの時を迎えました。


本校社会科では、平和教育を重要な柱の一つとして位置付けています。日々の授業に加えて、こうして現地の声を直接聞く機会を通じて、それらを他人事ではなく、自分の人生の延長線にある自分の問題として想像し、共感できるようになれたらよいと願っています。

 

デイビッドさんとNHKの方をお迎えし、熱気に包まれる大教室

質疑応答では、生徒から次々と質問が出されました