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【歴史探訪】日本天文遺産に認定!フェリスで天体観測

2022.03.19

[歴史]

地球から見られる極めてまれな天文ショーがあるのをご存じですか?

その名は「金星の太陽面通過」。太陽と地球の間に金星が入り込み、その影が太陽面を横切る現象のことです。その現象が起きると、地球から遠く離れた金星が、まるで太陽にできた小さなほくろのように移動していく姿を、地球から見ることができるのです(写真1)。同じような現象として有名なものは「日食」(太陽と地球の間に月が入り込み、太陽の光が満ち欠けして見える現象のこと)があります。日食はほぼ毎年地球のどこかで見られますから、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

さて、この大変珍しい「金星の太陽面通過」。日本で最初に観測されたのは1874129日でした。1874年、ずいぶん昔ですね。日本はそのころ、明治時代。江戸時代に続いた「鎖国」が終わり、日本に外国人が入れるようになっていました。観測したのはメキシコ人の天文学者フランシスコ・ディアス・コバルビアス隊長(写真2)。隊長率いるメキシコ人の天体観測隊は、横浜に訪れ、野毛山(現在の野毛山動物園近く)とフェリスのグラウンドにそれぞれ拠点を置き、観測を行ったのです(写真3)。

2地点で観測を行った理由は、「太陽と地球の距離を測るため」でした。普段は太陽がまぶしすぎて、直接太陽と地球の距離を測ることはできません。しかし、太陽と地球の間に金星や月(日食の場合)が入ることによって、その影ができます。天文学者たちは、金星を2か所で観測して、その時間差をもとに太陽と地球の距離をより正確に計算しようとしたのです。(計算には、「三角法」や「ケプラーの法則」が使われます。中学や高校の数学や物理・地学で学習します。)

1874129日の横浜はよく晴れていたそうで、観測は無事に成功します。そのころ、既にフェリスはメアリー・キダ―先生によって学校としての歩みを始めていました。178番地に建設中だったフェリス初めての校舎の傍らで、天文学の歴史に残る観測が行われていたのですね。

この1874年の観測から148年後の今年度(2021年度)、日本天文学会はその歴史的な意義の大きさを後世に伝えるため、フェリスと野毛山に置かれた観測地点(現在は個人宅)を日本天文遺産に認定しました。フェリスの敷地内には今でも、この地が観測地点であることを記念した記念碑と川崎天文同好会寄贈の説明板がおかれています(写真4)。川崎天文同好会の方々には今回の「日本天文遺産」にエントリーする際にもご尽力をいただきました。

当時建設中だったフェリス初めての校舎は、その後激動の時代を経て、姿かたちを変えながら今でも、生徒たちの学びの場としてその歴史を紡いでいます。148年前、コバルビアス隊長が観測の地として選んだ小高い丘の上は今でも天体観測を行うには絶好のスポット。天文部の生徒たちは、すっかり様変わりした横浜の美しい風景を眼下に、148年前から変わらない夜空を見上げ、天体観測を定期的に行っています。暗いニュースが続く今、気持ちがざわざわしてしまった時は、夜空を眺め、長い歴史に思いをはせてみてはいかがでしょうか。

※写真1~3 原典:VIAJE DE LA COMISION ASTRONOMICA MEXICANA AL JAPON
引用元 ディアス・コバルビアス 著/大垣貴志郎・坂東省次 訳『ディアス・コバルビアス日本旅行記』雄松堂出版 1983年5月 

 

 

写真1 太陽面を通過していく金星

写真2 コバルビアス隊長

写真3 山手第2観測地点(現:フェリス女学院グラウンド)

写真4 記念碑と説明板(川崎天文同好会寄贈)